ニコラさんたちのお部屋はね、このお家の一番端っこの方にあるんだよ。
そしてその向こうにあるのが、二階に上がる階段と地面の下にあるお部屋へ行くための階段なんだ。
「二階に関しては、ほとんどいじってはおらぬのじゃろう?」
「はい。娯楽室などを一部使いやすいように配置換えはしておりますが、後はほとんど変わっておりません」
「うむ。ならば、後は地下を見ればよいだけじゃな」
あんまり変わってないんだったら、わざわざみんなで見に行かなくってもいいでしょ?
だから後は地面の下のお部屋を見たら、このお家の探検はお仕舞いなんだって。
「はい。それではご案内いたします」
って事で、ストールさんを先頭に、僕たちは地面の下のお部屋に続く階段を下りてったんだ。
「わぁ! ロルフさん、棚のとこに木の樽が入ってるよ」
階段を一番下まで降りると、そこには壁のとこに木でできた棚がいっぱいあるお部屋があるんだ。
でも、ここって前来た時はその棚の中に何にも入ってなかったでしょ?
だからその時は、お外よりちょっとだけさぶいお部屋だなぁくらいにしか思わなかったんだよね。
それが今はその棚の中にいっぱい木の樽が入ってたもんだから、僕はそれを見てびっくりしたんだ。
「前に来た時は何も入っておらなんだが、こうして酒樽が入っておるのを見ると、ここはかなり立派な貯蔵庫である事が解るのぉ」
「はい。旦那様の館にはさすがに劣りますが、これだけの地下貯蔵庫がある館はあまりないと思われますわ」
どうやらそれは僕だけじゃなかったみたいで、ロルフさんもいっぱい置いてある樽を見てびっくりしたみたい。
だからストールさんに、凄いねぇって。
そしたらストールさんは、こんなにいっぱい木の樽が入るとこは少ないんだよって教えてくれたんだ。
「でもさ、なんでこんなにいっぱい木の樽が入ってるの?」
「それはですね、このような場所の管理も、館を預かる者の大事な仕事だからなのです」
さっきストールさんが言ってた通り、ロルフさんちにはここよりももっとおっきなお酒を置いとく場所があるんだって。
って事はさ、そこで働く人も当然いるでしょ?
そういう人たちがお勉強できるようにって、これを入れたんだってさ。
「そっか、そういうお勉強をする人もいるんだね」
「はい。それにメイド見習いや執事見習いも、主人や来客にお出しする時、ワインや蒸留酒の種類が解らなくては困りますでしょう? ですからその勉強のためにも必要なのです」
ストールさんが言うにはね、今は樽しか入ってないけど、用意ができたらビンや陶器のツボに入ったお酒を入れる棚もここに置くつもりなんだって。
だってそういうののお勉強もしとかないと、それが飲みたいっていう人が来た時に、出し方が解んなくって困っちゃうもんね。
「それにしても、これだけの樽が並んでおると、流石に壮観じゃのぉ」
「お孫様と違って、旦那様はあまり貯蔵庫には足を運びませんものね」
ロルフさんのお孫さんはね、おいしいものが大好きだから、今日はどれを飲もうかなぁってお酒が置いてあるとこまで見に行く事が多いんだって。
でもロルフさんは執事さんやメイドさんに今日はどういうのが飲みたいってのを言うだけで、そういうとこにはあんまり行かないそうなんだよね。
だからこんなにいっぱい樽が並んでるのを見る事、あんまりないんだってさ。
「こんなにいっぱい並んでるとこなんて、僕も初めて見た! あっでもさ、どうやってこんなにいっぱい入れたの? ここって階段しかないのに」
でもさ、こんだけいっぱいあるって事は、その全部をここまで下ろしたって事でしょ?
それってすっごく大変だったんじゃないかなぁって思った僕は、どうやっておろしたの? って聞いてみたんだ。
そしたらストールさんはにこって笑いながら、そんなに大変じゃないのよって。
「階段に二枚の板を置いて、複数で下から樽を押さえるようにしながらその上を転がすようにして下したのですわ」
「そっか。そしたら持ち上げて運ばなくってもいいもんね」
「はい。ですから実を言うと、地下に下ろすよりも棚に並べる方が大変だったそうですわ」
階段を転がすのと違って、棚にのっけるには持ち上げないとダメでしょ?
だからその時は上からひもで引っ張る人と下から押す人とで、頑張って持ち上げたんだってさ。
「じゃあさ、もし下ろそうと思ったら、その時もすっごく大変そうだね」
でもさ、乗っけたって事は、いつかは下ろさなきゃダメでしょ?
だから僕、その時もみんな大変だろうなぁって思ったんだよ。
でもね、その時は乗っける時と違ってすっごく簡単なんだってさ。
「いえ、そうでもないですのよ。なにせ樽を下ろす時は、中のお酒が全部なくなった時ですもの」
「そっか。飲んじゃったら軽くなるもんね」
そう言えば、樽を下ろすって事は中のお酒を全部飲んじゃったって事だもん。
そしたらおっきな樽でも軽くなっちゃうから、そんなに大変じゃないかもしれないね。
「それに今回は人手があったので使いませんでしたが、新しい樽を追加する時は今回よりもかなり楽にのせる事ができると思いますわよ」
「そうなの? なんで?」
「その時は、重さを軽減させる魔道具を使用するからですわ」
「そっか! あれを使えばすっごく軽くなっちゃうもんね」
ここに置いてあるお酒の入った樽って確かにすっごく重たいけど、ブラックボアやブラウンボアに比べたら軽いはずだもん。
でもそのブラックボアやブラウンボアだって、軽くする魔道具を使ったら森の奥から持ってこれるでしょ?
だからその魔道具さえ使えば、こんな樽くらい、簡単にのっけられるよね。
「ですから、ルディーン様のご両親が遊びに来られた時に、ここにあるものをいくらお飲みになられても大丈夫ですわよ」
「ええっ! ここのお酒、お父さんたちが飲んでもいいの?」
「はい。この貯蔵庫を使用させて頂いておりますし、旦那様の貯蔵庫と違ってそれほど高級なものは置いておりませんから」
ストールさんが言うにはね、ロルフさんちだとすっごく高いお酒も置いてあるからもしそれを飲まれちゃうとちょっとお待っちゃうんだって。
でもここにあるのはお勉強用のお酒だから、お父さんがいっぱい飲んでもいいよって言うんだ。
「じゃあさ、ニコラさんたちもいい?」
「ニコラさんたちもですか?」
ニコラさんたち、お爺さん司祭様と一緒にお酒飲んでたもん。
きっとここにあるお酒を飲みたいって思ってるんじゃないかなぁ。
そう思った僕はストールさんに、いい? って聞いてみたんだけど、そしたらちょっと考えてからニコラさんたちの方を見てこう言ったんだよ。
「あまり飲みすぎない程度でしたら構いませんが……大丈夫でしょうか? 」
「えっと……それほど高いお酒は無いんですよね?」
そんなストールさんに、ニコラさんはびくびくしながらそう聞いたんだよ?
そしたらさ、ストールさんはにっこり笑いながらそうですよって。
「はい。高額なものでもグランリルの方々でしたら、イーノックカウに遊びに来られた際に少しだけ贅沢をと考えて注文なさるであろう程度のものしか置いておりませんわ」
「それって、今泊まらせてもらってる宿のお酒の中でも、高級な方のお酒があるって事じゃ……」
ちょっとびくびくしながら、そう言っていっぱい並んでる樽を見るニコラさんたち。
それを見たロルフさんはね、ストールさんをコラー! って叱ったんだよ。
「ライラよ、そう脅かすでない。この中にはこの娘らでも飲めるものはあるのじゃろう?」
「はい。『若葉の風亭』で食事と一緒に出されるグレードのものならばいくつか」
「うむ。ならばその樽がどれかを教えておけばよいではないか」
そんなロルフさんに、畏まりましたって頭を下げるストールさん。
でもね、
「あの宿のお酒と同じくらいって……」
「あれを毎日飲んでもいいなんて言ってるけど……」
「それがご褒美って事は、それってどれくらい大変な指導が待ってるって事なんだろう……」
それを聞いたニコラさんたちは、なんでか知らないけどさっきまでよりももっとびくびくしだしちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ニコラさんたちは、そんな良いのものを飲んでいいって言われるくらいだからきっと今まで以上に大変な指導を受ける事になるのでは? なんて心配しています。
でも、実を言うとそんな事は無いんですよね。
ただ単に、ロルフさんの館のメイドや執事たちの勉強のために置いてあるお酒なので、それが最低ラインであるというだけだったりします。
あくまでニコラさんたちのためにわざわざ安いお酒を用意するよりは手間がかからないので、飲んでもいいよって言うだけの事なんですよ。
ただ、それをわざわざ説明してはくれないでしょうから、しばらくの間ニコラさんたちはびくびくとし続ける事になるのですがw